虹色アゲハ
「じゃあ僕の事も、下の名前で呼んでもらえると嬉しいです」

距離詰めてくるわね…
まさか表の顔で詐欺する気?

「そんなっ、いいんですか?
じゃあ…」

その時、テラスへの扉が開けられ…
風に乗って甘い香りがふわりと漂う。


この匂いっ…
揚羽の胸に、劈くような痛みが走る。

それは懐かしくて残酷な、愛憎の匂い…
そう、揚羽を絶望に陥れたあの少年の匂いだった。


うそ…
あの男がここにいる!
瞬時に緊張感が押し寄せて、鼓動が激しくなる。

どこに…
揚羽が周囲に気を張り巡らせた時。


「…聡子さん?
聡子さん、大丈夫ですかっ?」

「…あ、すみませんっ。
ちょっとお腹の調子が…
お手洗いに行ってきますね」

そう取り繕って。
そこへ向かいながら、周囲に探りを入れていると…

ひときわ強く、甘い匂いに包まれる。


だけど付近は女性客で…

ふと、その場にたくさん飾られたライラックのような花に気が止まる。


もしかしてこの花の匂い?

嗅いでみると、まさしくその通りで。
ネームプレートには"ブッドレア"と記載されていた。
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