虹色アゲハ
「…聴いた通りよ。
お腹の調子が悪いから、誰かといた方がいいと思って」

でも本当は…
浮かない気分を引きずっていて、1人でいると気が滅入ってしまいそうだったからだ。


「ふぅん」
倫太郎はそう相槌すると。

それ以上何も訊かずに、揚羽の隣に腰を下ろした。


「……ねぇ」

ぼそりと呟く揚羽に、いつになく優しげな顔が向けられる。


「倫太郎は、なんでハッカーになったの?」

「は?
…なんだよ急に。
今さら俺に興味でも湧いた?」

渇いた愛想笑いを浮かべて、そう返す倫太郎に…
訊くんじゃなかったと言わんばかりに、溜息を吐く揚羽。


「ごめん、プライベートな事は訊かない約束だったわね」

それはバディになった当初、2人で決めた約束だった。

そのため揚羽は、倫太郎の素性を何も知らない。
その生い立ちはもちろん、名前も偽名かもしれないし年齢も嘘かもしれないと…

それでも。


「ビール、付き合う?」

おもむろに立ち上がった倫太郎が、冷蔵庫からそれを取り出す。

「しょうがないわね」

その誘いは、お腹が悪くないのをお見通しで…
揚羽もまた、本当は付き合ってくれてるのを解っていて。
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