策士な御曹司は真摯に愛を乞う
診察の順番を待つ女性たちが、長いベンチ椅子を埋め尽くしている。
私は初診だし、予約もしていない。
だから、相当待つことになると覚悟した。
だけど、他科とは言え、ついこの間まで入院患者だったせいか、ほんの一時間ほどで私の順番が回ってきた。


「こんにちは、黒沢美雨さん。調子はどうですか?」


狭い診察室に入ると、白衣を着たわりと若い女医さんが電子カルテから目を外し、椅子を回転させて私に向き合った。


「え? あ、あの……」


自分でも、受診の目的をなんと言えばいいかわからずにいたから、『調子』を問われて口ごもった。


「そろそろ、生理来ましたか?」


そう問われて、ますます戸惑う。


「え、えと……?」


なんだか、『初診患者』に対する質問じゃない気がする。
産婦人科といったら、初診患者は妊娠を疑っているか、旅行を控えて生理周期をずらす薬を処方してもらうか……私にはそのくらいしか考えつかないけど、そのどちらにも、質問がそぐわない気がする。


「入院中は、脳外科病棟にお任せしてましたが、情報は共有してもらっています。腹痛もなかったようだし、不正出血の報告もなし。腹部エコーやCT画像からも……」

「あ、あのっ」


しゃべり続ける女医さんに、私は慌てて口を挟んだ。
彼女が、「はい?」と聞き返してくれる。


「あの……なんのことですか?」

「え?」
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