策士な御曹司は真摯に愛を乞う
どんよりと濁った意識の中――。
夏芽さんの声が、耳をくすぐった。


『俺の家のことなら、ちょっと揉めるかもしれないけど、心配いらない』


その声に、私はぼんやりと目線を上げる。
上半身裸で、私を腕に囲い込んだ体勢で、彼が目元を綻ばせてはにかんだ。


『でも……鏑木さん』

『大人しく、はいって言って。それとも、俺が君をどれほど愛してるか、もっと激しく刻まれたいの?』

『! ……はい』

『よろしい。……でも、まだ離さないけどね』


じんわりとした幸福感に走る、邪魔なノイズ。
砂嵐が、ビジョンを遮る。


『夏芽さん。今夜は、報告があるんです』


続くのは、私のやや緊張した声だった。


『その……実はですね。私、妊娠、したみたいで……』


恥ずかしそうに、目を泳がせて『報告』する私。
私の前にいるはずの、夏芽さんの表情は映り込まない。


『困ります……か? それなら、堕ろした方が……』


返事をしてくれないから、不安になってそう続ける。
それを聞いて、やっと彼が反応を示してくれた。


『ごめん! 突然で、実感湧かなくて』


慌てたような返事をしながら、ぎゅうっと抱きしめてくれる。


『堕ろすなんて、とんでもない。美雨、愛してる。君が俺の子を産んでくれるなんて、夢みたいだ』


夢みたい――。
初めてこういう関係に陥った時、彼が私を抱きながら口走った言葉が、脳裏を過ぎる。
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