策士な御曹司は真摯に愛を乞う
私を覚醒へと導いたのは、ズキズキとした頭痛だった。


なんだろう。
片頭痛とか、二日酔いの時の痛み方とは違う。
頭の芯から沸いてくるのではなく、外側からじんわりと広がる痛みのようだ。


私は、不快な頭痛の原因をぼんやり分析しながら、重い目蓋を持ち上げた。
途端に、白い光が、視界に射し込んでくる。
眩しさのあまり、眉間に皺を寄せて目を細めた。


「う……」


無意識に唇から零れた呻き声を、自分の耳で拾った。
と、同時に。


美雨(みう)っ……! 気がついたか」


すぐ近くで、ガタンと大きな音がした。
私は反射的に目を閉じ、びくんと身体を震わせた。
それ以上物音がしないのを確認してから、恐る恐る目蓋を開く。


今度は、目を眩ませることもなかった。
というのも、私を覗き込む人の身体が、天井からの照明を遮断してくれたからだ。


「気分は? どこか痛むところはない?」


私に影を落とし、重ねて問いかけてくる男性の姿に、何度も瞬きを繰り返した。


さらりとした癖のない黒髪。
額に下りた前髪の向こうの、形のいい太い眉。
眉根を寄せていて、眉尻がクッと上がっている。


ちょっと険しく、鋭く細められた切れ長の目。
わずかに下がり気味の目尻が、美しい顔立ちに中性的な印象を含ませる。
微かに潤んだ黒い瞳が、なにか不安げに揺れている。


切迫して強張っているけど、端整な顔立ちのイケメンだ。
私は、その顔をよく見知っていて――。
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