策士な御曹司は真摯に愛を乞う
「……えっ?」


視界いっぱいに映り込むのが誰かを認識できても、意味がわからない。


「か、鏑木(かぶらぎ)さんっ……!?」


ギョッとして、裏返った声でその名を叫んでしまった。


「なんで鏑木さんがここに。って……」


どうして彼が、眠っている私のそばにいるのか。
それも十分謎だけど、そもそもここはどこだろう。


彼の向こうに見える天井。
白い光の発光源は、蛍光灯だった。
なにやらとても殺風景で、どう見ても私の部屋ではない。


「あの、ここはいったい……っ、痛っ!」


慌てて起き上がろうとして、とっさに身体の横についた右腕に、なにか引き攣れたような違和感が走った。


「あ! こら、ダメだよ」


鏑木さんが短い声をあげて、私の肩を両手で押さえつける。


「起きるんじゃない。横になってて」

「……え?」


眉根を寄せて制止され、私は困惑しながら彼を見つめた。
きゅっと唇を結んだ彼に見つめ返され、どぎまぎしながら目線を外して、宙に彷徨わせる。


右腕に走った痛みの原因がわかった。
私の腕には、なにかの針が刺されていて、テープで固定してある。
そこから伸びたチューブを辿って視線を動かしてみて、点滴を受けているのだと合点した。
そうなると、ここがどこかもおのずとわかる。


「病院……。どうして」

「覚えてないのか? 君は昼間、オフィスのグランドエントランスで、エスカレーターから転落して……今までずっと意識がなかったんだ」
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