策士な御曹司は真摯に愛を乞う
ペコリと頭を下げて挨拶すると、先生は「いいえ」とはにかんでから、人差し指でポリッとこめかみを掻いた。


「鏑木さんを、待たなくていいんですか?」

「え?」

「十時頃、迎えに来ると言ってましたけど……」


そう言いながら、白衣の袖からゴツい腕時計を覗かせる。
私も、自分の左手首の時計に目を落とした。
現在、九時十五分。
この後、入院費の精算をして、薬局で薬をもらって……やることを全部済ませても、鏑木さんが来る前に、病院を出るのは可能と計算していた。


「ええと……この後、会社の方にも挨拶に行こうと思っているので」


私はぎこちなく笑って、コートに袖を通した。


「申し訳ありませんが、鏑木さんがいらしたら、私が謝っていたと伝えていただけませんか」

「それは構いませんが……」


箕輪先生は顎を撫でながら、なにか思案顔をする。


「今日会わなくても、業務上、顔を合わせる機会はあります。その時直接、これまでのお礼をするつもりです」


私が言葉を重ねると、先生も何度か頷いてくれた。
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