策士な御曹司は真摯に愛を乞う
鏑木さんは、私をベッドに横たわらせると、ゆっくり背を起こしながら教えてくれた。


「転落……」


再びベッドに横たわった私は、そっと彼を見上げる。


「そう」


頷いてくれるのを見て、左手を持ち上げ、額に当てた。


そうか。
それなら、覚醒前から感じていたこの頭痛は、頭を打ったかなにかしたからだろう。
それで、この点滴?
鎮痛剤かなにかだろうか……。


「一緒にいた俺が、救急車を呼んだ」

「っ、え?」


やや硬い強張った声で続けるのを聞いて、私はパチパチと瞬きを返した。


「どうして、私が鏑木さんと?」


彼の言葉の意味が、まったくわからない。


「どうして、って。……美雨?」


なのに、私以上に鏑木さんの方が困惑した様子で、探るように呼びかけてくる。
その呼び方が、さらに私の混乱を強めた。


「え、っと。鏑木さん、どうして私の名前を……?」


そう、起き抜けでも名前で呼ばれた気がするけど、聞き間違いだろうと、気に留めていなかった。
でも、二度目となると、自分の耳を疑うこともできない。


鏑木さん……鏑木夏芽(なつめ)さんは、鏑木ホールディングスという不動産会社の若き副社長だ。
日本のみならず、海外でも有数の大企業グループ、鏑木コンツェルン一族の御曹司。
私、黒沢(くろさわ)美雨は、その子会社である住宅メーカーの秘書室勤務で、役員秘書を務めている。
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