策士な御曹司は真摯に愛を乞う
――だけど……。
彼への反発心は強まるのに、私は抗議を躊躇ってしまう。


だって、彼が見せた切なく苦しそうな表情は、目蓋の裏に焼きついている。
私がそんな顔をさせているなら、彼の意図に反論して、断固拒否なんてできない。
こうなったら、自分で思い出すまで、大人しくしているしかないのかも……。


「……はあ」


私はがっくりとうなだれてから、のそのそとベッドから降りた。
一人で部屋にこもっていても、残念ながらなにもすることがない。
リビングにホームシアター並みのテレビがあったから、観させてもらおう。


部屋を出ようとして、クローゼットに目が留まった。
そう言えば、鏑木さんが、『着替えはこちらで用意した』と言ってたっけ。


私はクローゼットの前に歩いていき、ゆっくりドアを開けた。
そして、


「うわあ……」


ズラッと並んだ服を見て、私はギョッとして目を瞠った。
オフィスにも着ていける、気回しやすいスーツが二、三着だろうと思っていたのに、クローゼットには様々なスタイルの服が吊るしてある。


予想通り、定番のスーツはもちろん、これから迎える春らしい、パステルカラーのスカートにブラウス、カーディガン……。
さらに、どこに着ていけというのか、シックなイブニングドレスまで揃っている。
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