契約結婚！一発逆転マニュアル♡
両親の死を悲しむなといっているのではない。

こんな形で両親を亡くしてしまえば、誰だって辛いに決まっている。

それでもこれから一人で生きていかなければならないのだ。

一度悲しみに溺れてしまうと、そこから這い上がるのは本当に辛く苦しいことだ。

仕事柄、そんな人間を見てきた遥翔だからこそ言える言葉ではあるが。

さすがに一度しか会ったことのない新入社員に、言うことではなかったかもしれない。

遥翔は少しだけ後悔したが、取り消せる言葉ではない。

遥翔はまっすぐ依舞稀を見つめた。

これでパワハラだなんだと騒がれたとしても仕方がない。

しかしそんな遥翔の言葉の意図を、何故か依舞稀は自然に組み取ることができた。

掴まれた腕を振りほどくこともせず、依舞稀はのろのろと立ち上がった。

「……」

ありがとうございます、と口にしようとしたとき。

「依舞稀っ」と遥翔の後ろで声がした。

慌てて駆け寄ってきたのは光星だ。

依舞稀の腕を掴んでいる遥翔をチラリとみて、「心配したよ、依舞稀」と親し気をアピールでもするかのように、依舞稀の肩を抱いてみせた。

「大丈夫だから……」

光星の腕から逃れるように、身を捩って依舞稀は小さく呟いた。

まるで親しさをアピールするかのように、依舞稀の頬に伝った涙を拭おうと光星は手を伸ばしたが、「いい」と依舞稀から払われてしまった。

そんな二人を一見した遥翔は、こんな時に面倒事はごめんだと、その場に背を向けた。

依舞稀はその背中に向かって、「忌引き明けには出社します。今日はありがとうございました」と声を掛けた。

その言葉を遥翔は口角を上げて聞いた……。
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