契約結婚!一発逆転マニュアル♡
うるうると目に涙を溜め始めた依舞稀を、遥翔はぎょっとして目を見張った。

「やっぱり私じゃダメなんでしょうか……。お母様のお眼鏡になんて適うはずなかったのに、初めからご挨拶もせずに……」

これで涙を流させてしまったら、せっかく可愛くメイクした意味がなくなってしまうだろう。

遥翔は素早くジャケットのポケットからハンカチを取り出すと、依舞稀の下瞼にサッと当てた。

「そんなことは全くないから、何も気にすることはないぞ」

そう言いながら焦ってフォローする。

「依舞稀をもてなしたくて、飛行機の便を急遽一本早めたらしいんだ。きっと今頃キッチンで食いきれないほどの料理を作ってるはずだ……」

「……ほんとに……?」

「ああ。料理中に邪魔すると機嫌が悪くなるからな。先に親父とお茶でも飲んでろって言われてるし、リビングに行こう」

「はい……」

美穂子はとても料理上手ではあるが、何でも作れるがゆえに、調子のいいときは恐ろしいほどの量を作ってしまうという欠点がある。

依舞稀と会うことを心待ちにしていた美穂子は、いったいどれほどの料理を作ってくるのであろうか。

心配になりながら、遥翔は依舞稀を優しく抱きしめてからリビングへと向かった。

リビングに続く扉をガチャリと引き、「ただいま」と遥翔が声をかける。

「おお、遥翔か」

リビングの奥には大きな窓があり、重厚なカーテンが引かれたその前の立派なソファーに、遥翔の父親であり、桐ケ谷グループの会長、桐ケ谷誠之助が座っていた。
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