契約結婚!一発逆転マニュアル♡
依舞稀が誠之助をまともに目にするのは、それこそ入社式の時ではなかっただろうか。

桐ケ谷の全グループを率いている誠之助であるから、なかなかホテルキリガヤに顔を出すことも少ない。

それでもフロント業務であった頃は数回見かけたことはある。

しかし内勤業務になってからは全く目にすることがなくなってしまった。

遥翔の父親であるという以前に、依舞稀にとっては会社の会長である。

「久しぶりだな親父。紹介するよ、俺の奥さんの依舞稀だ」

遥翔にそう紹介されれば、深々とお辞儀をし、「ご挨拶が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。私、緒方依舞稀と申します」と、まるでホテルの社長室にいるかのような挨拶をしてしまった。

しまった、と顔を歪めた依舞稀に対して、「もう緒方じゃないだろ。依舞稀は俺の妻なんだから」と突っ込む遥翔に誠之助は微かに微笑んだ。

「会えて嬉しいよ、依舞稀さん。早速だがね、美穂子が来る前に話しておきたいことがあるんだ」

誠之助は神妙な面持ちでそう言うと、二人をソファーに座るようにと誘導する。

遥翔と依舞稀の体に一瞬にして緊張を走らせるあたり、誠之助の眼力の底知れぬ力を感じさせた。

「まず、遥翔」

鋭い視線が遥翔を捕らえるだけで、依舞稀まで肌のピリつきが伝わった。

「お前には最初から伝えていたと思うが、ホテルキリガヤの社長就任の件だ」

いい妻をもらい身を固め、愛妻家といわれるまでに家庭を大事にできればホテルの社長に遥翔を就任させるという条件であったと、この話になるまで遥翔はすっかり忘れていた。
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