契約結婚!一発逆転マニュアル♡
遥翔と依舞稀の前にカップを置くと、誠之助は少しぬるくなってしまった紅茶に口をつけた。

「遥翔は覚えているだろう?私が病気で手術を受け、しばらく療養していたことを」

「ああ、そういえばそんなことがあったな」

それまではどんなことがあっても仕事を休むなんてことはなかった誠之助が、8年前初めて長い休養を取った。

本人からも母親からも大した病気ではないと言われていたし、誠之助は遥翔の見舞いも必要ないと断っていた。

多少の違和感はあったものの、本人達がそういうのだからと、当時22歳だった遥翔はそんなに気にも留めずに日常を過ごしていたのだ。

「あの時、実は食道悪性腫瘍を患っていたんだ。かなり厳しい状態だったんだよ」

「そうだったのか……」

「手術しようにも腫瘍の場所がかなり悪くてな。なかなか手術してくれる病院が見つからず途方に暮れていた。そんな時、私は一人の医師と出会ったんだ」

誠之助の話の流れからするに、依舞稀との関りが見えてきた気がする。

「それが依舞稀さんのお父様、緒方医師だった」

やはりそうだったのか。

依舞稀は久々に聞く父の名前に胸がいっぱいになった。

「緒方医師は私のレントゲン写真を見るなり微笑みかけてくれたよ。今までの医師は見るなり溜め息をつきながらレントゲン写真を突き返してきたというのにね」

誠之助は忘れもしない緒方医師の笑顔を思い出した。
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