契約結婚!一発逆転マニュアル♡
遥翔が一体何を考えているのかなど、依舞稀にわかるはずもない。

しかしほんの少しでもホテルを辞めずに済むのなら、新たな契約に縋るしかない。

「お前専用の新契約だ。どうする?」

選択を与えて貰ったが、依舞稀には一つの選択しかない。

「このホテルを辞めなくていいのなら、ぜひよろしくお願いします」

そう言うと依舞稀は遥翔に深々と頭を下げた。

「お前がこのホテルを辞めずにすみ、なおかつ借金地獄からも解放されるという、最高の契約だ」

「借金からの解放……ですか?」

それはいったいどういうことなのだろうか。

そう簡単に返せる金額ではないことくらい、全てを調べた遥翔ならばわかっているはずだというのに。

新契約の待遇があまりにも良すぎて、その内容が依舞稀には全く分からない。

「簡単なことだ」

遥翔はそう言うと依舞稀との距離を一気に縮め、顎に指を掛けて上を向かせると息がかかるほどの距離で、信じられない一言を依舞稀に浴びせた。

「緒方依舞稀。黙って俺と結婚しろ」

「…………は?」

「俺と結婚しろと言ったんだ。契約書は婚姻届けだ。お前が署名捺印すれば、後は全て俺が解決してやる」

このイケメンはバカなのか?

いきなりまともに話したこともない従業員と結婚しろ?

有り得ない。

脳ミソ腐ってんじゃないの?

依舞稀は完全にパニックに陥った。

遥翔の発した言葉が嘘か冗談か、はたまた聞き間違いなのか。

とてもまともでは考えられない発想に、何をどう答えていいかすらわからない。

「ここで契約を交わしてもいいが、お前の気持ちも考慮して、返事は明日まで待ってやろう」

せっかく考慮してくれるのであれば、内容を考慮していただきたい。

「どうせお前の選択は一つしかないんだがな」

依舞稀は驚き過ぎて言葉も発せない。

しかし遥翔はまるで依舞稀の答えがわかっているかのように、自信満々な表情を崩さなかった。
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