契約結婚!一発逆転マニュアル♡
この女の表情は、どうしてこんなにそそられるのだろうか。

副社長室に入ってきた依舞稀を見つめて、遥翔が一番に思ったのはこれだった。

「緒方依舞稀」

「はい……」

「判子は持ってきたか?」

「はい……」

遥翔は机の引き出しから、茶色の枠の薄い紙を取り出した。

「じゃあ、ここに署名捺印を」

淡々と事務作業のように捺印を求めてくるが、それが婚姻届けであることを、果たして遥翔はわかっているのだろうか。

依舞稀はおずおずと机の前に進み、初めて目の当たりにする婚姻届けをまじまじと見つめた。

「どうした?早く押せよ」

そう急かしてくる遥翔の表情からは、この結婚が遥翔にとって何の意味もないことが伺える。

「あの……教えて欲しいことがあります」

依舞稀は勇気をもって遥翔を射抜いた。

「どうして新契約が結婚なんですか?」

何をどう考えても答えは見つからなかったが、どうしてもそこは聞いておかねばならぬこと。

自分の人生が掛っているというのに、『ハイわかりました』と簡単に判を押す愚かな人間など要るはずがない。

「答えていただかないと、サインもなにもできません」

そう言った依舞稀の言葉に、遥翔は眉をしかめたが、いくら怖い顔をされたところで引くわけにはいかない。

「これは私の人生を変える大きな問題です。うやむやになんてできません」

一度質問してしまえば度胸も出るというもの。

仮に結婚となってしまえば二人の立場は対等でなければならない。

一生迫害されて生きていくなんて、まっぴらごめんだ。

依舞稀は開き直り、怯えることをやめた。
< 44 / 230 >

この作品をシェア

pagetop