喪主する君と 青い春 石川編

一滴水

ヨミの手の中にある、金の鳥。
それを見た、シオンは

「先輩?もしかしてー、その『開運おみくじ』、集めてます?ー」

そう言って、おみくじ箱を指さした。
そこには、全部で12個の縁起物のどれかが入っていると書いている。ヨミは、ニッコリと笑って応えた。

「初めて、『鷽替え』がでたわ。」

いそいそと、ヨミが 財布に金の鳥を入れるのを、シオンは見ながら
思い出した事を伝える。

「先輩、その鳥、見て思ったんですけど。オーナーの 『聖徳太子と、人魚の浮世絵』って、それ、滋賀の石山寺ですよー。」

「あら?後輩ちゃんの得意地域かしら?」

まあ そんなとこですねー、と頷いて シオンはヨミに付いて歩く。

「結構、有名な話なんですよー。きっと、日本で一番古い人魚のミイラに纏わる話です。因果応報?因果一如?を人魚が話すんです。あ、北陸も人魚の話ありますよね?」

ヨミは、シオンに今度は、展示館関係を廻る事を示して サラリと答えた。

「八百比丘尼の伝説ね。人魚の肉を食べて、今も生きているって伝説。」

シオンを、再び助手席に乗せて、ヨミは車を走らせる。

「それです!先輩!その八百比丘尼が食べた肉って、『ジュゴンの肉』だって言われてるんですよー。」

得意げに語る シオン。

お堀通りは左右に緑が多くて、
街中の道でも 気分よく走れる。

「後輩ちゃんは、本当に食べるモノなら なんでも興味、示すわよね?」

と 今度はヨミが、嫌味を含めて 微笑んだ。

「まるで、食べ物しか興味ないみたいじゃないですかー。まあ?そうなんですけど。」

左手に通称『21美』が出て来て、金沢歌劇が見えた。ヨミを 横目で見る、というのも 某歌劇団が舞台する場所だから。

助手席のシオンが ヨミを非難する。

「早くに亡くなった義叔父が、南の出身だったんですけど、昔は その辺りで ジュゴンを漁していた事を聞いたんです。」

「えぇ!!日本でジュゴンって食べるの!それ、やだ、凄くない!」

ヨミが、思わず シオンの顔をガバッと見て仰天する。

右手に今度は、放送局の 鉄塔が見えてきた。

「昔は、四国とかも いたみたいですよ。ほら、聖櫃=アークを包んでいたのも、ジュゴンの皮だったとか。ジョバンニのアザラシの皮と一緒ですよ、耐水性があるんですよ。
肉は、不老不死とか媚薬に出来て、骨はお守りにしたって。涙だって、恋愛の効能があるとか。年貢としても、肉を納めてたらしいです。
汎用性が高いから乱猟ですねー」


ハンドルを切って、
裏側に回った駐車場に、車を停めた。

「弱冠、引く話だわね。あ、着いたから! 降りるわよ。ここから少し歩くわね。」

二人は 車から出て、緑の多い小道を奥に行く。
歩きながら、ヨミは 続けた。

「何、ジュゴン凄いじゃない?でも、絶滅危惧種よね?もう保護対象じゃないかしら。」

まもなく、低層モノクロツートーンの建築物が出てきた。

「その通りですよー。5000ぐらいしかいなかったかも。ジュゴンがモデルだって言われる人魚って、やっぱり『涙=アクアマリン』が、漁師の航海の守り石 なんです。だから、オーナーの見たっていう、船箪笥に入れているのも、納得ですねー。」

話て近づくと、『禅』の精神を投影したような 建物は
とてもモダンな建築だ。
一目で有名建築家のものと解る。

「ふむ。でも、人魚には、不老不死の秘訣を、ぜひ説いて欲しいかも。」

ヨミは 夢る様な
目をした。

「あたし、こないだエンディングドレスを用意したんで、『不死』は困ります!」

間髪いれずに、
今度はシオンが ヨミに 言いった。

木々や石垣、
水の自然は 金沢庭園を意識した
趣向。モノトーンの石タイルがモダンだ。

「あのね、後輩ちゃん、貴女は 先にウェディングドレスを用意しなさいよ!!おかしいでしょう、なんでエンディングドレス先に用意するのよ?」

ヨミは 呆れながら シオンを嗜めて、

建物に入った。

入り口で挨拶をした
学芸員スタッフに、シオンが
名刺と企画のフライヤーを渡す。ヨミの知り合いらしい。

「やはり、海外に初めて 禅思考を発信した宗教家の記念館ですから、外国からのお客様が 3割も来られるんです。」

そう、いいながら、玄関の庭を
横手にヨミとシオンを、内回廊を通り 案内をしてくれる。

水鏡に佇む白い建物。
水面に 青い空が写り込む、
静寂の空間。

「シリコンバレーを代表する、
コンピュータパイオニア企業の創立者(リンゴマークのとこですね)が思考したのが『禅(ZEN)』だと、海外で広く知られたのが、あるからなんですけど。」

学芸員は重ねて語り、
水鏡の庭を建物をまわる。

無言の悟りを呼ぶ様な
雰囲気の外部回廊をまわる。
と、大きな音が響き、

波紋が出来る。

「夕方のライトアップや、
朝瞑想もできますよ。よければ
又いらして下さいね。」

丁寧に でも、踏み込みむ事なく、
案内してくれた 学芸員は、
ヨミに頷いてから 消えた。

水鏡に立つ建物の中。
薄暗い正方形の部屋に
畳のベンチが置かれている。
部屋に入ると、外の風景が
別世界に写る。
それが どこか 金沢的だと
シオンは思った。

八百比丘尼が 入定する 洞窟から
外を見ると、こんな感じだろうか。


真ん中に空いたスペース。
「見えない四畳半」

見える長方形に
切り取られた景色は、
それこそ、『禅』の思想に
一歩でも近づけそうだ。

生と死

老いと 若い

陰と陽

因と果


人魚の涙って
守りにも
恋愛の媚薬にも
なるなんて。
どうやって、泣くの?

海亀みたいに、
生み出す時に泣くの?

と、シオンは ぼーっと
関係無い思考を 少しする。

常に 世界の美術館ランキング
上位の美術館や、
五感が刺激される体感の場所。
街中に ユニバーサルデザインな
建築物があり、歴史と文学が共存している。

挨拶周りだけでも、
つい時間を忘れてしまいそうな
街だと、
シオンはヨミと、畳の椅子に
座り、感じて、

隣のヨミに、

「先輩。石山寺の 西国三十三周り。廻ると、六種類の 鳥を、お土産の土鈴で 集めれるんですよ。」

と、小声で、囁く。

「うそ?! ほんと!可愛いの?それ、欲しい。」

ヨミの反応に、にまっと
シオンは満足した。
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