レーセル帝国物語 皇女リディアはタメグチ近衛兵に恋しています。
入室してきた父に,目を瞠ったリディアは慌てて居住(いず)まいを正した。デニスなんか,彼女以上に畏まっている。
「ええ,もう大丈夫でございます。ご心配をおかけして,申し訳ございませんでした」
「いやいや,楽にしていてよい。そなたが元気になってくれて安心した」
そう言って胸を撫で下ろすイヴァンの表情は,一国の主ではなく一人の父親のものだった。
「――ところで,だな。カルロスどのが,急きょ帰国の予定を早めると言ってな。明日,スラバットへ向けて発つそうだ」
「明日,ですか。本来は,一週間ご滞在の予定でしたのに」
それだけの長い滞在であれば,この国内で彼を案内したい町や場所がまだたくさんあったのに……。
「うむ。サルディーノの件があったからな,一刻も早く帰国して,国王として即位する必要があるのだろう」
< 220 / 268 >

この作品をシェア

pagetop