俺様専務に目をつけられました。
「今日、茂三さんから何も聞いてなかったのか?」

「はい。」

確かに俺がギリギリまで黙っておいて欲しいと願ったが、本当に何も言わず連れて来た茂三さんってある意味すごいな。

「俺が来るの知ってたら、お前来なかっただろ?」

本心を伝えていいのか少しためらった後、彼女は素直に『はい』と答えた。

「そう思ったから茂三さんにギリギリまで黙っておいて欲しいと俺が頼んだ。」

「あの、本気なんですか?何で私なんですか?専務ならもっと他にいっぱいお話しあるでしょ?」

彼女の頭は疑問でいっぱいなのだろう。

「ああ。実際、親父からもどっかのお嬢さんとの見合い話を持ち掛けられた。でも俺はまだ結婚する気も無いし、するにしても俺の事をよく知りもしないで、見た目と地位だけで寄ってきたお嬢さんはごめんだ。でも、どうしても今回は誰かと会えと言われ困っていた時に爺さんがお前との話を持ちだした。」

「えっ、会長から?」

「その時はお前の事を全く知らなかった。なんでかエレベーターで会ったお前が頭をよぎって爺さんの話にのった。正直いつかは見合いして結婚すると思っていたから、その話が進むまでの時間稼ぎになればいいと思って。」

自分でもなんでここまで素直に話をしてしまっているのか驚いた。
でも本能的にこいつは繕った笑顔や話では落ちないと感じた。

「その後、海外事業部で助っ人をしているお前を見て、お前の事がもっと知りたくなった。今まで俺の周りにいた女性たちとは真逆なお前を。」

何も答えず彼女はただ話をする俺の目を見て話を聞き続けた。

「そのうち、お前を誰にも取られたくないと思うようになった。」

「誰にもって、私の事狙ってる人なんていませんよ?専務は今までいなかった人種の私に興味をもっただけですよ。それは恋愛感情とは違うと思います。もし時間稼ぎが必要なら協力はします。でもお付き合いはしません。」

ほらやっぱり彼女は違う。
身分が違うと思っていても普通の女は俺が声をかければついてきた。
だが彼女はあっさりと断りを入れてくる。



「決めた。お前に。」


そう言いきった俺からも目線だけは外さなかった。
小動物が捕食者に追い詰められたかのようにおびえながら目元を潤ませていたのに・・・。


「お前が、晴香がいい。俺は晴香が何度断っても諦める気はない。だから早く俺に惚れろ。」

晴香は俺から目を逸らし黙って神戸の街並みを見つめていた。
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