俺様専務に目をつけられました。
翌朝七時五十五分、チャイムが鳴った。

『はーい!』と母は楽しそうに玄関まで出て行く。わざわざ玄関まで来なくてもいいと言ったのに毎回玄関まで迎えに来て、帰りも玄関まで送り届けられる。一度外で待っていたら『迎えに行くから家で待ってろ。一人の間に何かあったらどうする。』とものすごく過保護な事を言われた。おかげで毎回ちゃんと挨拶し送り迎えをしてくれる専務は両親からの印象もよく、出かける時は『いってらっしゃーい!』と歓迎ムードで送り出されるのだ。

「お待たせしました。」

急いで玄関まで行くと母はご機嫌で専務と話をしていた。

「では、行ってきます。」

専務は母に挨拶すると私の手をひき歩き出す。そして自宅近くのコインパーキングに停められた車に乗り込んだところで行先を聞く。これが毎回のルーティーン。

「でっ、今日はどこに行くんですか?いつもの車じゃないですけど。」

そう、いつもは専務にお似合いのグランドチェロキーなのに今日はえらくコンパクトな車。たぶんレンタカー。

「香川、美味いうどんが食いたくなった。」

「はっ?四国?」

「意外と近いぞ。高速で行けば三時間ほどで着く。今からだとちょうどいい時間になるな。」

「そうですか。なんでいつもの車じゃないんですか?」

「途中、細い山道も通るから俺の車じゃ不便なんだ。」

どんな店に連れてく気なんだ・・・。
まあ讃岐うどん、本場で食べてみたかったからいいけど。
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