俺様専務に目をつけられました。

18.

両親の薦めで自宅を離れ、おばあちゃんが亡くなるまでおじいちゃんが住んでいた家に来て早くも十日が経った。
専務や佐伯さんに会わずに済むことで精神的にも少し落ち着いたからか、あれだけ酷かった貧血の症状もほとんど無くなった。今のところ悪阻もそれほど酷くなく空腹になれば少しムカムカする程度。

「お散歩行って来るー。」

「大丈夫?一人で。」

ここに来た当初、一人で散歩に出かけた先で気分が悪くなり慌てて母に連絡を入れ迎えに来てもらってから一人で出かけるとすごく心配される。

「大丈夫。今日もふらつきないし、スマホも持ってるし。いつものコースだから。」

家を出て少し行くと大きな川の土手がある。その土手を川上に向かって十分ほど歩けば大きな河川敷公園になっており、その土手の大きな木の下のベンチが最近のお気に入りスポットだ。木陰のベンチに座り景色を眺めて心を落ち着かす。

「昨日かー。」

昨日、発表されたであろう専務と佐伯さんの婚約を思い大きなため息をついた。

「何が昨日なんだ?」

その声と同時に後ろから誰かに抱きしめられた。いや誰かではない、専務だ。

「なっ、なんで?」

息が止まりそうになる。専務は優しい笑みを浮かべながら隣に座り私を抱き寄せた。

「迎えに来た。俺が一人で何とかしようとしたせいで晴香に不安や嫌な思いさせてごめんな。」

固まったまま返事すらできずにいる私を力強く抱き寄せたまま専務は話を続けた。
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