俺様専務に目をつけられました。
「あの、私持てますから。行先四階じゃなく下に降りるんですよね?」

「急がないから。」

そう言っているうちに四階に到着し、その人はスタスタと先に行ってしまった。慌てて私もエレベーターを降りて後を追い、海外事業部のドアを開けた。

「おい!これ総務からだ。誰か取りに行ける奴いなかったのか!」

入るなり入口近くにいた社員に声をかけた。

「専務!えっ、あっ、すみません。えっ、でもなんで専務が?」

はっ!この人専務だったの!何だか威圧的な物言いするなとは思っていたけど!
会長と社長の顔は社内報とかにもよく載ってるから知ってたけど、専務と常務の顔は知らなかった・・・。

そして専務の声を聞き奥から急いでやって来た上役らしき人に

「こいつが重そうに運んでいた。誰か男手で取りに行けるやついなかったのか。」

「すみません。いつも重い物は男性社員が持ってきてくれていたので。君もごめんね。」

海外事業部の人が悪いわけじゃない、男手がいなくて持って行けない事を伝えなかった総務も悪いのだ。

「いえ、ちょうどうちも男性社員が出払っていていなかったので。あとこれもお届け物です。」

私のせいで注意を受けたその人に申し訳なくて頭を下げた。
専務は言いたい事だけ言ってまたスタスタとエレベーターに戻って行く。私はまた急いで追いかけ『ありがとうございました。』とお礼を言うと少し間をおいて『ああ』とだけ言ってエレベーターに乗り込んだ。

「三栗」

名前を呼ばれ振り返ると飯田君が追いかけて来ていた。

「これ返品だって。それとうちの課に重い物運ぶ時、人手がなかったら俺に連絡して。行けそうなら取りに行くし。

「ありがと。いつもはちゃんと男の人が運ぶか台車使ってるから。今日はたまたまどっちも無かっただけ。」

「んー、まあ連絡くれたらいいし。」

何かいつもと違う様子の飯田君、ほんのちょっと気になったけどそれよりも・・・。

この数時間で会長を『いっちゃん』と皆の前で大声で呼んでしまうし、専務に荷物運びさせてしまうし、そっちの事の方が私にとっては重大事件だ。

なんと言う厄日なんだ。上層部に目をつけられてませんように・・・。
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