夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】
皮肉だな。
オレに人の心を取り戻させてくれたのが、過去に1番憎んでいた兄上だった。
今のオレを見たら、母さんはどう思うのだろうか?
……。
いや、そんな事は愚問だったな。
私がこれから逝くであろう先は、きっと母とは違う場所だから……。
予想していなかった状況に、そう、思わず感傷に浸ってしまった時だ。
「ーー私と一緒に、だと?
……そんな事、信じられると思うか?」
鼻で笑った声が、緩んでいた空気を再びピリッとしたものに戻す。
シャルマ様は胸ポケットからタバコとライターを取り出し火をつけると、一服して私を睨み付けた。
解り合えるのではないかーー?
そう、感じたのはほんの一瞬。
目の前のシャルマ様は、また以前のこの人に戻っていた。
「ディアス、殺れ」
低い、張りのある、太い声が告げる。
長く積み上げられた"この人"を変える事は、おそらくもう不可能だった。
「邪魔をしないで下さい。アラン様」
命じられたディアスはシュッと一瞬手首を振ると、袖口に仕込んでいたナイフを取り出し、手に持って構える。