夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

けれどヴァロンは、自らの口で引退発表を語る事を選んだ。
取材をする記者の中には、かつて彼の事を悪いネタにし続けた「ドリーム・キャッチ」の者達も居て、私達は不安で仕方なかった。……でも、…………。

『今日、ここに立っている自分が全てだと思っています』

記者達から容赦なく飛び交う質問に、ヴァロンはそう言って微笑った。
そして、病気だった事、それが原因で記憶を失っている事、家族の事、左手が不自由な事……。今自分が話せる全てを包み隠さず話し始めた。
それは重い話の筈なのに、彼が時に面白おかしく語ったり、何より終始穏やかな表情で話すから……。いつの間にか記者達の冷ややかな視線や冷やかしの言葉はなくなり、その場に居た全員が静かにヴァロンを見守っていた。

『忘れてしまった事、失ってしまった時間もあります。けど、俺が戻って来た時に暖かく迎えてくれた、家族と仲間がいました。
その人達の表情や雰囲気を見て、分かったんです。俺がこれまで歩んできた夢の配達人としての人生がとても素晴らしくて、掛け替えのない、愛おしいものなのだと……』

彼から紡がれる一言一言が、私には"私が知るヴァロン"にしか思えなかった。
< 258 / 338 >

この作品をシェア

pagetop