【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
第5章 双つの救い
 随分と目紛しく、色々と展開しながら過ぎて行く日々を、果たして無駄にしてはいないだろうかと思う。
 自分のことでないから無駄にしてると言えばしているし、それが葵という知り合ったばかりの他人に影響し、運良くいい方向に進んでいるのなら、無駄にはしていない。

 要は、焦点をどちらに置くか。

 最終それを決めるのは、採点する本人の人柄だ。
 自分が第一、あるいは他人は後だというような、似たような意味だがそういった方向なら前者、人好しかマザーテレサのような聖人なら後者。
 ざっくり分けてこんな感じだとは思うのだけれど、果たして僕は――

 桐島さんに言わせれば僕は余程の人好しらしいのだけれど、その自覚というか、自分がそうであるとはあまり思えない。
 嘘は極力吐かない主義だけれど、それがイコール他人の為に時間を割いてるのかと問われれば、それもまた違うような気がしてならないのだ。

「と、そんなことを考えて待ってた」

 語りかける相手は、となりでちょこんと丸まって座りながら蒸したてほやほやの肉まんを頬張る葵だ。
 待ち合わせたスタバで何か暖かいものを頼めば良かったものを、わざわざコンビニに立ち寄ってこれがいいと愛おしそうにショーウィンドウを眺めていたものだから、つい財布の紐が緩んでしまった。

 とは言っても百円と少しなので、払うと言われた時には断った。
 何して待ってたの、との問いかけに対する僕の答えは、葵の表情を曇らせるには十分過ぎたようで、

「何それ、変」

 と素っ気ない反応を見せられてしまった。
 言われてみれば確かに、スタバで人を待ちながらわざわざそんなことを考えているなんて、変わっている。

 けれど、時間の使い方なんて人それぞれだと僕は言いたい。
 二つ目の「変」を貰ってしまうことが容易に想像できるから言わないけれど。
 愛想笑いのような苦笑いをして、再び前を向いて歩き始める。

 目指すは自分の通う大学、その中の一室だ。

「お兄さん、暇なの?」

 ふと、葵が失礼なことをダイレクトに聞いてきた。
 どう返したものか、と迷う時点で既にそれを肯定している。

「暇というか、本当ならあの店に行ってるんだけど、今はこれが仕事の範疇だからね」

「ふーん。お兄さんってお人好し」

 お人好しか。また、言われてしまった。
 僕の中では、頼まれた仕事をこなしているに過ぎないのだけれど。
< 40 / 98 >

この作品をシェア

pagetop