【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 それから程なくして集まった全員。

 気が付けば、またいつの間にか眠っていた葵を起こさないように「しー」と人差し指を立てると、後で何があったか教えろと言い残して、それぞれこの場の観光へ。
 桐島さんは少し離れた所から僕らの様子を観察し、夫婦は下から橋を眺め、姉妹は上からその風景を見下ろす形で一望していた。
 安心したように寝息を立てる葵の髪を昨日のように撫でてやると、少しばかりの身動ぎの後で、

「おじいちゃん…」

 と呟いた。
 それは、昨晩見せた悲しい涙は含んでいなかった。
 意識の届かない夢の中で、悲しさではない感情で祖父と向かい合っている。



 やっと、ちゃんと会えたんだな。
 どんな夢で会っているのだろう。

 場所は通潤橋だろうか。
 当時のように祖父の膝を借りて、穏やかに眠っているのだろうか。
 今の姿で立ち会って、ここに来たよって報告でもしているのだろうか。

 考え出すと止まらず、幾つもの幸せで素敵な場面が想像出来て、

「お疲れ様」

 ようやく口に出せたその一言とともに、一滴の涙が僕の頬を伝った。
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