バーテンダーの貴方と。
貴方が消えちゃうのなら

僕も消えたっていいやって

思えるくらい貴方が好きだよ。


たとえ貴方に愛しい人が居ようと。


(バーテンダーの貴方と。)

「いらっしゃいませ、おっ、ゆう!」

カランカラン、と子気味よい音を立ててドアを開ければ、にこりとバーテンダーである五十嵐さんが微笑んでくれた。

「こんばんは、五十嵐さん」

僕はいちばん五十嵐さんの顔が見やすい、端っこの(その方が見られていると悟られにくい)いつもの席に腰を下ろした。

「今日はあったかいねー、はいおしぼり」

「ありがとうございます。あったかいですよね、僕上着着てきちゃって…」

「また朝バタバタしてたんでしょ。だめだよー、ニュースみないと。というかもっと余裕をもって…」

五十嵐さんにお小言を言われるのは嬉しい。だって、その時間を僕に使ってる…僕のことを考えている、ということだから。ははは、すみません、なんて笑うけど、内心は嬉しくて仕方ないんだ。

「…ということだよ。…さて。今日は?」

「あ、えっとおすすめのやつで、ハイボールを…」

「かしこまりました」

…かっこいい。
氷をグラスにいれて、くるくるとバースプーンで混ぜる細くて長い指も、しゅるる、とウイスキーの蓋を開けるその無駄のない動きも。ああ、今日もかっこいいなあ。

しゅわわ…と炭酸が注がれ、きれいにまざるウイスキー。その蜜のような色も、いつみても素敵だけど。

「おまたせしました。今日はデュワーズのハイボールです」

「ありがとうございます!」

いちばん素敵なのは、五十嵐さんだ。

ひとくち、割れそうに薄いグラスに口をつけて、五十嵐さんのおすすめのウイスキーであるデュワーズのハイボールを飲む。

…おいしい。なんていうか、癖がなくて飲みやすい。こんなにさっぱりしているなら、何杯でもいけそうだ。

「ふふふ。その顔はあたりだね?よかった」

「はい!おいしい…!」

「ゆうはなんでも美味しいって言ってくれるから。嬉しいよ」

にこり、と目を細めて笑った五十嵐さんと目が合えば、心臓がちくん、と痛くなる。…ああ、すきだ。そう実感できるほどに。

「あっ、そうだ昨日彼女に貰ったせんべいあるよ。よかったらいる?」

「いただきます!」

じく。痛い。

聞きたくない。

聞きたくなんかない。

五十嵐さんの左手に光る細い指輪は、いつも僕を絶望させた。

絶対に実らないこの恋を、指輪はいつも嘲笑うのだ。




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