桐島藍子の記憶探訪 Act2.夏
 と、借りる譲らないから発展し、手伝う手伝わないという譲り合いに移行し言い合っている内に、荷物纏めが一段落ついたらしい桐島さんが降りて来て後ろから声をかけてきた。
 その方を振り返ると、片付けをしてきますと出ていった時のラフさとは異なる装いの桐島さんが。
 黒のロングスカートに上は白のカットソー、ブラウンチェックのストールをふわりと羽織っただけの大人なスタイル。
 どこかにおでかけ、といった雰囲気だ。

 その予想は的中したようで、お二人も一緒に出掛けませんかとのお誘い。

「何か買い忘れが?」

「ええ。せっかく資料集めにと赴くというのに、それを収めるのに一番重要なデジカメのバッテリーが弱ってしまってて、新しい物を買いに行こうかと」

 ついでに三脚も、と。
 確かにそれは重要だ。慰安はサブ、僕らはあくまでおまけなのであって、仕事道具を持って行かないなんて馬鹿な話はない。

 しかし、デジカメとは。
 また数奇なものだ。

「予算はどれくらいの物を考えてるんですか?」

「そうですねぇ……ちょっと奮発して、長期的に使えるものをと考えていますから、八万円以内くらいかと」

「本当に奮発しますね――と言っておきながら、ギリギリにはなるという前提でおすすめならありますよ」

「それは本当ですか…!」

 美味しい話に、やや興奮気味の桐島さんの顔は気が付けば至近距離に。
 ふわりと良い香りがして、僕は咄嗟に目を逸らした。

「しかしですよ神前さん。貴方、機械が苦手なのではありませんでしたか?」

「まぁ、そうなんですけどね。趣味と言いますか、カメラだけは詳しい自身があるんですよ」

「それは頼もしいです! 私、管轄外のものに関しては、そはもうからっきしで。すぐに出られますか?」

「ええ。葵はどうする?」

 文句を言いながらも、手に持った本を既に開いて眺めている葵に語り掛ける。
 返事は半分程度の意識によるものらしかったが、はっきりと「いく」と言った。

「決まりです。他にも少し買い足したい物があるので、大きいお店に行きましょう」

 と、入り口の方を振り返って歩いていく桐島さん。
 行先は、電車で二駅ほど走ったところにあるモール。件の物が一式揃っている電気屋、化粧品に女の子の道具と、スマホにメモをしながら進んでいく。
 ただ必要な物を買いに行くだけのお出かけに、そこはかとなくワクワクしているように見えたのは気のせいだろうか。



 電気屋に着くや、店員さんより僕の袖を引いてカメラコーナーへ一直線。
 一応知識はあるつもりだけれど、過剰な期待に目を輝かせるのはやめていただきたい。

 棚二つ程の狭い空間であっても、品数は存外に多く。
 目的の品へと辿り着く前に、あれやこれやと目移りしてしまう。

「神前さん?」

「すいません、今」
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