嘘恋のち真実愛
「くれぐれも無理するなよ。少しでも異変を感じたら、俺にすぐ言って」

「わかりましたよ」

「なんだよ、その拗ねたふうな返事は……」

「だって……今日起きてから何回めですか? 何回も言われるとうざくなりますからね」


私の言い返しに征巳さんは「うざいか……」と呟き、征巳さんは静かになった。

ただ心配してくれているだけなのに、冷たく返したのは、悪かったとは思う。肩を落として車を降りる征巳さんに合わせて、私も下車して彼により添う。彼は、弱々しい笑顔を見せた。

私たちが歩いていく先に、副社長の姿が見える。副社長とは、出勤時間が被ることが多いようで何度か駐車場で顔を合わせている。

私たちの姿を確認するなり、副社長は口元を緩ませた。


「おっ、芦田さん、もう元気になったの? あ、芦田さんじゃなくて、大江さんと呼んだほうがいいかな。んー、なんかややこしくなるから、ゆりかちゃんでいいかな?」


副社長までもが、私が昨日具合が悪かったことを知っていたとは……征巳さんが話したのかもしれないけど、ちょっと驚きだ。
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