嘘恋のち真実愛
早くここを出よう。待ち伏せされていても、なにか言い訳すれば突破できる。

まずは身の安全を第一に……。そろりそろりと部長との距離をあけていく。

しかし、彼が目ざといのか私の動きが分かりやすいのか、手首を掴まれた。


「は、離して!」

「勘違いしてるよね?」

「勘違い?」

「支払いしてあるのに泊まらず帰るのはもったいないと思わない? 俺は帰るから、芦田さんひとりで泊まったらいいと言ったんだ。朝食付きのプランだから、ゆっくり食べてと」


掴まれたことで怯えた私は、勘違いと聞かされて一瞬言葉を失った。

分かりにくい……。説明が足りない……。


「勘違いしました」

「そんなに俺、信用ない?」

「だって……」


続けようとした言葉が失礼なことだから、黙りこんでモジモジと離された手首をさする。

部長は「また言わないのか」とため息をついた。

あ……また指摘されてしまった。「すみません」と小声で返す。

部長は小さすぎた声を拾えなかったらしく、無言で残りの水を飲み干してから、上着を片手に抱える。
< 35 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop