嘘恋のち真実愛
「ゆりかちゃん、いらっしゃい。なんだ、待ち合わせしてたの? 彼氏さんと奥のテーブルに移る?」

「えっ、彼氏さん? どの方ですか?」


店長の言葉にいち早く反応したのは、市原くんだった。彼は目を丸くさせて、私を見たあとで店内を見渡す。

珍しく興味津々な顔をする市原くんに苦笑して、とりあえず止めていた腰をすとんと椅子に下ろす。

そして、店長に答える。


「約束していないから、ここでいいです。市原くん、探さなくていいから」

「いやいや、彼氏さんなら、約束していなくても一緒に食べたいでしょ? こういう偶然、うれしくないんですか?」


市原くんなら彼女と偶然会えたら、大喜びしそうだ。でも私の場合は、正式な彼氏さんではないから、喜ばない。


「別に一緒には……ひとりで食べるつもりだったしね」


だから、偶然会っても知らん顔してもいいはず……あ、でも、上司だから挨拶くらいするべきだったかな?

無視した私は部下として最低かも……。

市原くんは私の答えに不満げな表情をしたけど、セットのコーヒーを「どうぞ」といつもの笑顔で淹れてくれた。
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