嘘恋のち真実愛
「どうした? なにか気になることでもある?」

「嘘だと、ばれないでしょうか?」

「ばれないようにするけど、今の芦田さんでは不安だな」

「ですよね。お会いするのはやめたほうがいいかと思います」


できる限り回避したい案件だ。やはり部長の婚約者役は荷が重すぎる。今すぐこの大役を辞退したい。

部長は「そうだな」と手で顎を触りながら、考えた。せめてやめるようにすると言ってくれないだろうか……心の中で必死に願う。

しかし、言葉にしない願いが届くはずがない。予想もしない決断を一分も経たないうちに告げられることとなる。


「よし! 今夜から一緒に暮らそう」

「はい? なにを言いました?」


なにが「よし!」なのよ……。

今までで一番最悪な提案に、この人の思考回路はどうなっているのかと問いたくなった。頭が痛くなる。


「今夜は賢さんちで食べよう。とりあえず、適当に着替えとか必要な物を持ってきて。足りないものは取りに行くなり、買うなりしたらいいだろう」


賢さんちとは『Kenアイランド』のことだ。賢さんちと呼んでいることを、初めて知ったけれど。
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