千景くんは魔法使い
「……え、な、なにをしたの?」
私はきょとんとするだけで、状況が理解できない。
「なにもしてないよ。勝手に直ったんじゃない?」
私の驚きとは真逆に、千景くんは素っ気なかった。千景くんはそのままカバンを手に持って、なにも言わずに帰ってしまった。
……また、お礼を言いそびれちゃった。
千景くんはさっき、なにかをした。
でも、なにをしたのかはわからない。
千景くんって、元からミステリアスな雰囲気があると思っていたけれど、なんだか不思議な男の子だ。
部活はギリギリ遅刻しないで行くことができた。けれど、とくに私のことを気に止めてる人もいなくて、今日はラケットにも触らずに、黙々と先輩たちのシャトル拾いをしてた。
練習をしていなくても、ネットの片付けは後輩の仕事。私はポールからネットを外して、丁寧に折りたたんでいた。
「あー本当に三年はいいよね。やるだけやって自分たちはすぐ帰っちゃうんだもん」
同じ学年の女子生徒が文句を言いながら、ネットをぐるぐる巻きにしていた。