千景くんは魔法使い
そそくさとセーラー服を脱いで、青色のジャージに袖をとおす。ジャージは前開きなのでチャックを上まで上げた。
「……あ、あれ」
チャックが布を噛んでいて半分しか上がらない。
力いっぱいやろうとしてもダメで、布を引っ張ってもチャックの奥まで噛んでしまっていて、なかなか抜けない。
……もう、本当に私のバカ。
どうしようと、あたふたしていると、教室のベランダでガタッと音が鳴った。
ビックリして視線を向けると、室外機がある場所からむくっと誰かが立ち上がった。それは……。
「……え、ち、千景くん」
まさか人がいたなんて、気づかなかった。
千景くんは気まずそうな表情をして教室に入ってきた。
「あのさ、着替えるならカーテンぐらい閉めなよ」
その言葉で、カーッと顔が熱くなる。
もしかして、ずっと見られてた……?
「ご、ごめんなさい。誰もいないと思ってて……」
「べつに謝る必要はないけど、それどうしたの?」
千景くんが〝それ〟と指さしていたのは、私の上がらなくなったチャックだった。ますます恥ずかしくなってきて、私はきゅっと唇を結ぶ。
「直せないの?」
千景くんからの問いかけに、私はこくりと頷いた。すると、千景くんは私のチャックを指さしたまま、クイッと指先を上に向けた。
「多分、上がるよ」
そう言われて、私はチャックに手をかける。
さっきまでどんなに頑張っても上がらなかったのに、千景くんの言うとおり、あっさりと直ってしまっていた。