千景くんは魔法使い


「俺、花奈のこと傷つけてひどいことした。魔法のコントロールもうまくできなくなって、また同じことをするんじゃないかって、怖かったんだ」

千景くんの弱い声が、耳元で聞こえる。


「ごめん。痛かっただろ」

千景くんは私から体を離して、そっと右頬に触れてくれた。

「ううん。千景くんに避けられてるほうが私は痛かったよ」

千景くんに付けられた傷はもうない。

むしろ治ってしまったら、私たちの関係もなくなってしまうんじゃないかって、あれからずっと鏡を確認することが日課になっていたくらいだ。

「俺のこと、許してくれる?」

「当たり前だよ……!」

今度は私が千景くんに飛び付いた。

ふたりで顔を見合わせて、自然と笑みがこぼれる。

さぞ、私たちは目立っていると思いきや、やけに周りが静かなことに気づいた。

冷静に見渡すと、私にぶつかってきたカップルも、遊んでいた人たちも、ホイッスルを手に注意してる監視員も、空を飛ぶ鳥たちですら動きを止めている。


「……これって、千景くんの魔法?」

「わかんない。花奈を助けるために無意識にプールに飛び込んだから」

自分の意思とは関係なく出てしまった魔法に、千景くんは暗い顔をする。

けれど私は……。
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