セレナーデ ~智之

「そうだ。今日 お母様に 名前は考えているのって 言われたよ。」


智之と麻有子は お腹の赤ちゃんに 語りかける時 “チビちゃん ” と呼んでいた。


問いかける目の麻有子。
 

「少し考えているよ。チビちゃんの顔を見て 決めようと思って。」

智之が言うと 
 

「えー。教えて。」

と麻有子は 甘えた声で言う。
 

「だーめ。教えない。産まれてからの お楽しみ。」

と笑いながら 智之は答える。
 

「智くんのケチ。」

と拗ねた顔をする 麻有子が可愛くて 智之はさらに笑顔になる。
 


まだ 産まれる前から こんなに愛しい我が子。


産まれたら どれほど可愛いのだろう。



親は皆 こんな思いで 我が子を待つのだろうか。


自分も 姿が見えないうちから 父と母に 愛されていたのだろう。




もうすぐ産まれる 我が子を待ちながら 智之の心には 新しい感謝が 溢れていた。
 
 



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