セレナーデ ~智之

妊娠がわかった時 麻有子は 絵里加に 人形を与えた。

まだ小さな絵里加に 弟か妹ができることを ゆっくり理解させる為に。


絵里加は “べべちゃん” と名付けた お人形を抱いて

ソファの 智之の膝に乗る。
 

「べべちゃんは まだネンネしないの?」

智之が聞くと 小さな胸に 人形を抱き 背中を トントンと叩く絵里加。


お人形を 可愛がることで 

お姉ちゃんになる 練習をしている。
 


「ママの べべちゃんは どこ?」

と 智之が聞くと 麻有子のお腹を 優しく撫でる。

小さな手で 柔らかく。
 


「絵里ちゃん お利口ね。お腹の べべちゃんも 絵里ちゃんありがとう、って言っているよ。」

麻有子の言葉に 得意気な 笑顔を見せる絵里加。


麻有子は とても上手に 子育てをしていた。
 

たくさん 絵里加に話しかけ。

昼間は たくさん 外に連れ出し。


身重な 体なのに 絵里加を 最優先に過ごす。


食事も 手作りを心掛けていて 出来合いの惣菜などは 使わない。
 


「麻有ちゃん 無理しないでよ。一人の体じゃ ないんだからね。」


いつも綺麗に 整頓された部屋。


完璧に 家事をこなす麻有子に 智之が言う。

「大丈夫よ。全部 ゆっくり やっているから。絵里ちゃんが お利口だから。ママのお手伝い してくれるのよね。」

智之に 抱かれる絵里加の 頭を撫でる麻有子。
 

「絵里ちゃん お手伝いできるの?お利口さんだね。パパ 嬉しいよ。」

ギュッと 抱きしめる智之に ぴったり 寄り添う 可愛らしさ。
 

「さあ。パパと お風呂に入ろうね。」


絵里加を抱いて 立ち上がる智之を 笑顔で見つめる麻有子。



ここには 愛以外 何もない。


だから絵里加も こんなに可愛く 成長している。



智之は 溢れ出す幸せに 胸が震えた。







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