セレナーデ ~智之

松濤の実家は 住みながらの 工事だったので 

完成までに 思ったよりも 時間がかかった。


それでも 樹の新学期までに 

兄一家は 引越しを終えることができた。


水回りを一新し すっと 使い勝手がよくなった家。


樹と翔は 新しい家での生活に すぐに慣れた。


元々 よく来ていた家だから。


みんなが 賑やかで 楽しい生活に 満足していた。
 


四月末が 出産予定の麻有子は 

随分 お腹が大きくなっていた。


それなのに 絵里加を 軽々と抱き上げて みんなを心配させる。
 

「すごく 体調が良いの。絵里ちゃんの時よりも 体重 増えてないし。大丈夫よ。」

と笑う麻有子。
 

「転んだら 困るでしょう。本当に 麻有ちゃんは 油断も隙も ないんだから。」

と智之も 苦笑してしまう。
 

麻有子の入院中は 母と義姉に 絵里加を 預ける予定だった。


絵里加は 二人に よく懐いているので

母も義姉も 心配していなかった。


むしろ 二人とも とても楽しみにしていた。
 

「お母さんも 樹を預かった時より 年取ったからね。」

と 父に言われて 母は ムッとして
 

「絵里ちゃんは 女の子だから。暴れないから 大丈夫よ。」

と言い返す。


そんな 両親の会話を みんなが 笑顔で聞いていた。


「それより 智之さんも 夜は こっちに泊まってほしいわ。絵里ちゃん パパが一緒のほうが 安心でしょう。」


義姉の言葉は いつも温かい。


翔を出産した時 兄は 樹と一緒に 実家に泊まっていた。
 


兄夫婦が 同居した遠慮で 智之は 泊まりたいと 自分からは 言い出せなかった。


絵里加を 離すことは 不安でも 

母と義姉に 任せる覚悟を していた。
 

「俺まで 世話になってもいいの?」

智之は 笑顔で聞き返す。
 

「麻有ちゃんみたいには 行き届かないけど。みんなで 智之さんを 見張っているからね。」

と義姉は 麻有子に言ってくれる。


「なんだよ それ。俺 悪い事でも するみたいに。」

智之は苦笑する。
 

「ありがとうございます。男の人って 油断ならないから。本当に 安心です。」

麻有子が 真面目な顔で言い みんなが笑う。
 

「もう 麻有ちゃんまで。ひどいな。」

と 明るく答える智之。


その笑顔を いつも 待っていたのは 家族だから。


智之の 笑顔と思いやりを 取り戻してくれた麻有子に 家族みんなが 感謝していた。

 




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