セレナーデ ~智之

「廣澤。元気か。」
 
夕方 事務所で 残務を片付けていると

隣の課の 岡田課長に 声を掛けられる。
 

「お疲れ様です。」

と笑顔で 答える智之。


5年前 麻有子と再会した仕事に 同行した岡田課長。



あれ以来 智之に 目をかけていて 時々 声を掛けてくれる。
 

「二人目 産まれたんだって。」

仕事以外のことを 話すのは 久しぶりだった。
 

「はい。今度は 男の子です。写真 見ますか?」


智之は 笑顔で スマホを 取り出す。
 


「可愛いな。奥さん似かな。」

岡田課長の声に 誘われて 近くにいた社員が 集まる。
 


「僕にも 見せてください。」
 
「私も 見たい。」

と 賑やかな 輪ができる。
 


「わあ」とか「可愛い」と 声を上げながら スマホを覗き込む。


岡田課長が 画面をスクロールすると 

絵里加の 写真が出てきて 一層 歓声が上がる。
 


「お嬢さん すごく可愛い。」
 
「お人形みたいだ。」

みんなの声を 照れた笑顔で 聞いていた智之。


一瞬、歓声の色が変わる。


どよめきに近い声に 智之が 顔を上げると

スマホの画面に 麻有子の写真が 写し出されている。
 







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