セレナーデ ~智之

「わあ」

「奥さんですか」

「すごい美人」


智之は 慌てて 岡田課長から スマホを取ろうとする。
 


「廣澤の奥さん 綺麗になったな。昔も 可愛かったけど。今の方が ずっといいね。」


膝に 壮馬を抱いて 優しく微笑む 麻有子の写真。
 

「もう。奥さんの写真は 有料ですよ。」


智之のスマホは 近くにいた 社員の手に渡り 歓声が広がる。
 


「綺麗な奥さんと 可愛い子供。廣澤係長が マイホームパパなの 納得できますね。」
 
「どこで 知り合ったんですか。なんで 岡田課長 昔の奥さんを 知っているんですか。」

賑やかな声に 智之は苦笑して 
 


「岡田課長が 俺達の キューピットだからね。」

と言う。
 

「あれは すごい 奇跡だったよな。」


智之に合わせて 岡田課長も 思わせぶりな言葉を言う。



みんなの 好奇心で輝く目に 岡田課長は 少し引きながら、
 


「これ以上は 有料。」


と言って 智之に スマホを返す。


智之は 笑顔で 受取りながら 

画面の 麻有子を見て 温かく微笑んでしまう。



そんな智之を 目敏く見ていた 岡田課長は


「廣澤。今でも 奥さんの写真見るだけで 嬉しいの?」

と聞く。



「もちろんです。待ち受けに したいくらいです。」

照れた笑顔の 智之に 
 

「廣澤係長 いいなあ。俺も 廣澤係長みたいに なりたいな。」


智之に 憧れの目を向ける 後輩達。
 


麻有子は 運命の人だから。


一緒にいるだけで 智之は癒され 心が 豊かになっていく。



5年前 あの奇跡が なかったら 

自分は どんな風に 生きていたのだろう。



そう考えただけで 智之から 麻有子への 愛が溢れてくる。
 


『麻有子は俺の全てだ。』

もう一度 麻有子の写真に 目を向けて


智之は スマホを ポケットに入れた。
 
 








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