栗色のすみれ
ちょっとの油断で絶体絶命と思ってしまうほどの不安と焦りが込み上げる。

「すずー?どこー?」

棚の後ろを覗いても、カーテンの裏を見てもあの子はどこにもいない。
こんな1LDKの家で見つからないのならきっと外に出てしまったのだろう。
少し重たく感じるドアを開けて、鍵を閉める。

こんな状況でも冷静に戸締りできるというところはよしとしよう。

マンションの外の階段を駆け下りていく。



「すずー?」

家と家の間を覗いても、、公園の遊具の中を覗いてもすずは見当たらない。
はぁ、と溜息をつき、膝を抱え込む。

「大丈夫?」

ふと声をかけられ顔を上げると栗色の髪の女の人が立っていた。

「あぁ!すみません、こんな所にしゃがみこんで、変でしたよね!」

慌てて立ちあがり、前髪を少しなおす。

「ううん。どうしたの?」

彼女は首を傾げている。

「…………実は────」



「すずちゃーん!」

「すずー!」

事情を話すと、彼女は一緒にすずを探すのを手伝ってくれた。

「すみません、手伝わせてしまって…」

「大丈夫。あなたはすずちゃんが大切なんだね」

彼女は少しも嫌な顔をせず、ふわっと微笑み、思わず見とれてしまった。

「…はい。大切で、大好きなんです。なのに目を離してしまって…どこかで寂しくしてるんじゃないかって…」

「…そうだね。早く見つけてあげよう」


心做しか彼女は嬉しそうに見えた。




日がだんだんと傾いていく。

「もう、大丈夫です。時間も時間ですし、自分でもう少し探してみます」

「え、でも…」

女の人は心配しているのか眉を下げて困った顔をした。

「大丈夫です!本当にありがとうございました!お礼もきちんとさせていただきます!」

「……いいよ。お礼はいいから、すずちゃん見つかったらたくさん抱きしめてあげて。きっと喜ぶから」

「いえ!お礼をさせてください!ずっと手伝ってくださったし…あ、そういえばお名前は?」

女の人は手を唇に当て、何かを少し考えている。

「…すみれ。お礼は本当に大丈夫。きっともう会うことないから」

「そう…ですか……すみれさん、本当にありがとうございました」

彼女はふわりと笑うとじゃあね、と言って背を向けた。

数歩歩いたあと、顔だけ少しこちらに向けてまた笑った。

「案外、もう家に戻ってたりってこともあるかも。あなたも早く帰ってね」

「そうですね、ありがとうございます」

今度こそ彼女は帰っていった。

(家の方向一緒だ。誰か近所に家族か知り合いかでもいるのかな)

そんなことを思いながらもう少しだけすずを探した。



「はぁー…」

結局すずを見つけることは出来なかった。

暗い階段をとぼとぼ上る。ずっと探し回っていて疲れもピークに達している。

ポッケから鍵を取り出し、玄関の方へ歩くと月明かりでドアの前になにかの影が見えた。

「…………!!すず!!!」

すみれさんの言っていた通りすずは玄関の前でちょこんと座っていた。

「すず!心配したんだよ!!どこいってたの!」

安堵と、嬉しさと、ちょっぴりの怒りを感じながら抱き上げる。

すずはふわぁっと欠伸をした。


「にゃあ」


何事も無かったかのように、いや、むしろ嬉しそうに鳴いた。


「…ん?」

床に1輪のすみれの花が置いてあった。
すみれの花を手に取り、少し笑ってしまう。

(すみれさん。ありがとうございました。すず、見つかりましたよ)

目を瞑り、すみれの花にそう語りかけながら私は栗色のすずをぎゅっと抱きしめた。
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