愛は惜しみなく与う⑤
「好きな子おるんか。素敵やな」


何も言わずに杏ちゃんは、よしよしと頭を撫でてくれた。


「あたしもさ、母親から愛なんて貰ってないねん。でも、母のように父のように育ててくれた人たちがいっぱいいる。
だからあたしは、慧にそういう安心を与えてあげれたなら嬉しいと思うし、恥ずかしいことじゃないと思う」


顔上げて?
杏ちゃんに言われて、半ば無理やり顔を上にあげられた



「慧はかっこいいよ。自信持って。もう自分に嘘つかなくていいから。もう自分を押し殺さなくていいからさ」


この優しさ
この笑顔

あったかい



俺はきっと、この温かさを与えてもらったから、本当の自分の気持ちに気づけたんだ


嘘ばっかで自分を見せずに、淡々と過ごしてきた日々に出会った


1人の女性のことが頭に浮かんだ



「ええ顔してるな」


にこりと笑い、がんばりや!そう杏ちゃんが言ってくれたその時




電話が鳴った


人が感動的で心が軽くなって、余韻に浸ってるんだから、邪魔しないでよね?
< 204 / 417 >

この作品をシェア

pagetop