大正ロマンス
『君に一目ぼれした。僕と結婚してほしい』

『拒まないで。そばにいてほしい』

『愛してる。ずっと一緒にいよう』

『綺麗だ。世界で一番綺麗だよ』

弥勒からもらった言葉や甘いキスやハグを思い出し、鈴は静かに涙をこぼす。そして小声で歌い始めた。

小さい頃から鈴は歌が好きだった。まだ弥勒と出会う前、家族と一緒に暮らしていた時もよく歌いながら道を歩いていた。

自分の知っている歌、頭で思いついた歌詞やメロディーを口ずさんでいるうちに、気付けば辺りはオレンジに包まれていた。

「帰らなきゃいけないのかな……」

冷たい目や言葉を思い出し、鈴は呟く。いっそのこと弥勒と遠くへ逃げたい。しかし、それを言うことはできないのだ。

「そんな辛い思いをしていたんだね。気付けなくて、ごめん」

愛しい声に鈴は振り返る。すると、なぜかいるはずのない弥勒が立っていた。鈴は驚きと聞かれてしまったことに体を固まらせる。そんな鈴をふわりと弥勒は抱き締めた。
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