大正ロマンス
「鈴と出会う前、僕はある日君の住んでいた家の辺りを通ったことがあるんだ。その時に美しい歌声を聴いて、誰が歌っているのか知りたくなった。だから、あの場所へよく行くようになったんだ……」

そして、地震が起きた時に鈴の声を聴いて歌声の人物だとわかったらしい。鈴の瞳から涙がまたこぼれていく。

「鈴が僕に釣り合うと頑張ってくれているのは知っている。ちゃんと見ていた。鈴は一生僕の大切な人だよ」

まだこぼれ続ける涙を、弥勒は拭ってくれた。鈴は弥勒の頰を包み、口を開く。

「私は、弥勒様を愛してもよろしいでしょうか?おそばにいてよろしいでしょうか?」

「言ったでしょう?大切な人だって。周りが何と言おうと、鈴以外見ることはできないよ」

鈴と弥勒は優しく唇を重ねる。夕焼けが沈んでしまうまで、鈴と弥勒は離れなかった。

芥川龍之介や志賀直哉などの立派な作家の作品も、この淡い恋の物語には敵わない。

夕焼けが沈んだ頃、二人は手をつないで屋敷へと戻っていくのだった。
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