へたくそなキスのままがいい
へたくそなキスのままがいい
────キス、された。
そう頭が理解できたときにはもう腰の力なんてすっかり抜けて、私は床にへにゃりと座り込んでいた。
その頭上では、くすりと笑う声と。
「そんなによかった?」
……生意気な、弟の顔。
弟、といっても血は繋がっていない。
小さい頃から家族ぐるみで年に1回会うか会わないか程度の交流をしている、いわば幼なじみのような存在。それが彼だ。
「……どういうつもりよ、廉」
キッと睨んで見上げた私を、こいつ───廉(レン)は、満足気に笑みを浮かべて見下ろしている。
なんて生意気に育ったんだろう。
< 1 / 37 >