2度目の人生で世界を救おうとする話。前編
「謝らないで。僕はそんなことより姉さんが泣いていた理由が知りたい」
謝る私の頬に朱の指が微かに触れる。
それは壊れ物を扱うように優しい。
「……嫌な夢を見た。誰も私の側からいなくなって独りになって最期には死ぬ夢」
ここで嘘をついてもきっと朱にはバレてしまう。そう思った私は真実も交えて涙の理由を話した。
嘘はついていないと思う。夢じゃなく、現実だっただけで。
「……姉さん」
「へ!?」
朱に呼ばれたと同時に腕を引かれ体を起こされたかと思うとそのまますっぽりと朱の腕の中に入れられて思わず驚きの声をあげる。
いきなりなんだ!?
「絶対僕が姉さんを独りにはさせない。僕だけは姉さんから絶対離れない。だから大丈夫だよ」
ぎゅう、と朱の腕に力が入る。抱きしめられているから朱の表情はわからない。でもその声は強く、絶対を感じさせるものがあった。
「ありがとう、朱」
そんな朱の背中に私も腕を回して朱を思い切り抱きしめる。人の体温がこんなにも暖かかったことを私はしみじみと感じ、思い出せたことが何よりも嬉しかった。
真剣な朱の言葉。信じたい。だけど知っている。私のせいだとはいえ、朱がいつか私から離れていく日が来ることを。
だからごめんね。
私はその言葉を受け取らないよ、朱。
「本当に独りにはしないよ、姉さん」
小さく囁かれた朱の言葉。
その言葉はあまりにも小さく消え入りそうだったので、私の耳には届かなかった。