その上司、俺様につき!
(私も一緒に面談に立ち合う許可を、社長に最初から取ってたなんて、寝耳に水すぎるんですけど~!?)
面談に使われる部屋は、人事マネージメント事業推進部に隣接している面接用の会議室。
大きめの白いテーブルに、イスが4つ設置されただけのシンプルな部屋だった。
久喜さんはここで毎朝、盗聴器が隠されていないか、小型カメラが設置されていないかを念入りに確認する。
面談に入る前には、ボディチェックが義務付けられていて、勤続年数や役職に関わらず、公平を期して全員が受けることになっていた。
その際、携帯電話やスマートフォンを預かっておくのが、私の仕事と言えば仕事だったんだけど……。
「飯田圭吾さん……営業部に在籍して、今年で6年目になりますね」
(よりにもよって、飯田君の面談に同席するとか!!)
飯田君は、いつもより気合を入れたスーツとネクタイをコーディネートしている。
ここぞという取り引きの時に、よく着用するスタイルだった。
彼も緊張しているんだろう。久喜さんの隣に座っている私に、隙を見てはちらちらと目配せを寄越してくる。
(止めてよ! そんな風に見られたって、私には何もできないんだから!)
気まずさや戸惑いが顔に出ないよう、意識して無表情を貫いた。
「今の部署はどうですか」
久喜さんは静かな声で、飯田君に質問を開始する。
「あ、はい。採用していただいた当時は、営業部を希望していなかったので……。自分に勤まるのか自信がありませんでしたが、先輩方にご指導いただいて、現在はある程度自信がついてきたかなって思ってます」
(そうなんだよね……飯田君、新人研修の最中も『営業部だけは行きたくない!』って毎日言ってたもんな)
コミュニケーションが好きで、たくさんの人と話したいタイプの私と飯田君は、正直真逆のタイプかもしれない。
私は広く浅く。彼は、狭くはないけれど限られた特定の人と、しっかりとした信頼関係を築きたい性格だった。
「なるほど」
「自分なりに工夫もさせてもらえるし……ノルマ達成は確かにキツい時期もあります。でも、みんなもキツいんだから、自分も頑張ろうって思えるようになりました」
「ふむ……」
飯田君は緊張やストレスがある一定値を越えると、ご自慢の長い前髪をネジネジといじる癖がある。
今も手を髪に持って行きそうになり―――、そんな自分にハッと気づいては、慌てて元に戻していた。
(そりゃあ、凄腕役員と対面で面談なんだもん。緊張して当たり前だよね……)
同席しろと命じられたのはいいけれど、特に何をしなさいという指示は得ていないから、ただただ黙って座っているしかない。
(これじゃ、人の内緒話に聞き耳を立ててるみたいで、居心地悪いわ。むしろ私はここにいない方がいい気がする……)
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