その上司、俺様につき!
「俺さぁ、行動する大切さとか、主張する重要性とか……あの面談で、久喜さんに教えてもらった気がするんだよね」
短い沈黙の後、なんだかすっきりした表情で飯田君が言った。
そしてベンチから立ち上がり、うーんと気持ちよさそうに背伸びをする。
「なあ」
背中越しに、飯田君が言った。
「お前、久喜さんのこと好きだろ」
どくんと心臓が跳ねる。
「な、何言って……!」
「誤魔化さなくたっていいって。このことは、誰にも言わないし」
慌てて否定しようとしたけど、振り向いた飯田くんに強い言葉で制止される。
(ここで嘘をついたって、つかなくたって、どうせ想いが届かないことには変わりないじゃない……)
妙に捨て鉢な気分になり、私はしぶしぶ白状することにした。
「……好き、なのかもしれない」
小さな声でぼそっとつぶやくと、想像以上に大きなリアクションが返ってきた。
「なんだよそれ! 曖昧だな!」
まるで私を叱るようなその口調に、ついついこちらも感情的になる。
「だって! 好きになったってしょうがない人じゃん! 婚約者もいるって噂なのに!」
もう今日流せる涙は流し尽くしたはずなのに、ぽろっと熱い雫が瞳からこぼれ落ちた。
突然泣き出した私を見て、さすがに飯田君もギョッとしている。
「ご、ごめん……泣くつもりじゃなかったんだけど」
急いで涙を拭い、なかったことにしようとした。
「……でも、それってちゃんと確かめたの?」
飯田君はさっきよりも私に近い位置に座ると、私の顔を覗き込みながら言った。
「はあ?」
「久喜さん本人に、直接確かめたのかって聞いてんの」
男のくせにフサフサのまつ毛が、目の前で瞬いている。
(確かめるって、一体何を……?)
私も目をパチパチさせ、飯田君が何を言っているのか必死に理解しようとした。
(もしかして、婚約者の噂―――!?)
彼の言葉の意味を飲み込んだ途端、感情がワッと本音を吐き出す。
「……そ、そんなことできるわけないじゃない! あ、相手は、会社の上司なのに!」
目を白黒させて否定する私を見て、飯田君は何を感じたのだろうか。
さっと姿勢を正して、私の目の前に仁王立ちになる。

「俺、お前のことずっと好きだったんだよね」

そして唐突に、愛の告白をした。
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