一途な恋とバックハグ
叱られてみたいだなんて、自分にそんなMっ気があるとは思わなかったなあ~と感慨にふけって仕事の手が止まってたところに怒号が飛ぶ。

「おい!笹川!」

「…あっはいっ!!」

思わず椅子から飛ぶように立ち上がった私は恐る恐る声のした方に顔を向ける。
嵯峨野課長が不機嫌そうに目を細めちょいちょいと手でこちらに来いと言っている。

ごくり…生唾を飲みこんだ私は哀れそうに見上げる同僚たちの視線に顔を引きつらせながらそそくさと課長の元に進み出た。

「これは、お前が作った資料だな?」

「は、はい…」

「こことここ、間違ってる…」

そして永遠とも思える課長のお叱りが始まった。
今時小学生でもできる方式だぞと、揶揄され冷たい視線で見上げられピクリとも上がらない口角からは容赦ない叱責が並べ連ねられる。
それを一心に見つめていると、課長の言葉が止まった。

「…おい、聞いてるのか?」

「は、はい!聞いております」

「ならなぜそんな顔をしてる?」

「えっ?」

ぎろりと睨まれ思わず両頬を抑えた。
私今どんな顔してた?全然わからない。

「…まあいい。どうすればこのミスは無くなるんだ?」

「あ、はい!計算式の修正とデータの入力項目のずれが無いか確認をしっかりとすることです」

「それだけじゃないだろう?」

「ええと…あ、指導係の先輩に確認をしてもらうことです!」

「そうだ、研修期間は過ぎたがお前はまだ新入社員だ。一人でやろうとせずに先輩を頼れ。お前の事だ、忙しそうとか迷惑かもとか余計なことを考えてチェックを怠ったんだろう」

「う…まさにその通りです」

そして、これくらいだったら私だけでも大丈夫かなと高をくくってしまったのも原因だ。
課長は私の事も見てくれていた!と一瞬喜んだけど、ちょっとは出来る気になってた自分が恥ずかしい。

「わかったなら、今すぐ修正して今日中に再提出しろ」

「はい…」

「詰めが甘かったな。だが初めてにしては良く出来ている。ミスを直せば完璧だ」

しゅんとしながら突き返された資料を受け取ると思いがけないことを言われてびっくりした。
ばっと顔を上げて課長を見たら既にパソコンに向いていて目が合うことは無かった。
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