パンデミック.新形コロナウイルス
ナースステーションの空気が、一瞬で凍りついた。
僕はにこると南ちゃんの手を握りしめ、昨夜の安らぎと、検査室で突きつけられた残酷なまでの「健全さ」の余韻に浸っていた。
「昨日は……ありがとう。おかげでよく眠れたよ。検査の結果も、異常なしだった」
二人は顔を見合わせ、満足げに微笑んだ。
「よかったね。あんなに深く眠れたんだもん。……私たちが、あなたを一番気持ちよくしてあげたんだから」
にこると南ちゃんの言葉が重なったその瞬間、背後からあかりの声が響いた。
「……何やってんの」
振り返ると、そこには抗がん剤治療の副作用で少し痩せた身体を、点滴スタンドに預けて立っているあかりがいた。彼女の瞳が、僕と二人の看護師、そして繋がれた手元を交互に映し出す。
「……また、あれなの? 今度は看護師さんたちを、好きになっちゃったの?」
あかりの声が震える。僕が彼女の闘病中に、別の温もりを探し、別の誰かと夜を共有していたこと。それが「治療」という隠れ蓑を着ていても、彼女にとっては裏切り以外の何物でもないということが、その鋭い問いかけから伝わってくる。
「違う、あかり、これは……」
言い訳を探す僕の口を、あかりの嗚咽が遮った。彼女は点滴スタンドから手を離し、顔を覆って泣き出した。
抗がん剤の副作用でボロボロになりながら、僕の孤独を埋めるためではなく、僕が「誰かに縋り付かなければ生きていけない脆い人間であること」を突きつけられた絶望。
にこると南ちゃんも、その光景を前に言葉を失い、ナースステーションの隅で立ち尽くした。
僕の手には、まだ二人の手の温もりが残っている。
右手に南ちゃん、左手ににこる。そして目の前には、泣き崩れるあかり。
僕は、自分の欲望と、大切にしたいはずの優しさの間で、完全に引き裂かれていた。ナースステーションという聖域は、僕の醜さを隠しきれず、あかりの涙によって、ただの泥の溜まり場へと成り下がっていく。
誰も動けない。ただ、あかりの泣き声と、電子音だけが、この閉鎖された病院の夜を支配していた。
僕はにこると南ちゃんの手を握りしめ、昨夜の安らぎと、検査室で突きつけられた残酷なまでの「健全さ」の余韻に浸っていた。
「昨日は……ありがとう。おかげでよく眠れたよ。検査の結果も、異常なしだった」
二人は顔を見合わせ、満足げに微笑んだ。
「よかったね。あんなに深く眠れたんだもん。……私たちが、あなたを一番気持ちよくしてあげたんだから」
にこると南ちゃんの言葉が重なったその瞬間、背後からあかりの声が響いた。
「……何やってんの」
振り返ると、そこには抗がん剤治療の副作用で少し痩せた身体を、点滴スタンドに預けて立っているあかりがいた。彼女の瞳が、僕と二人の看護師、そして繋がれた手元を交互に映し出す。
「……また、あれなの? 今度は看護師さんたちを、好きになっちゃったの?」
あかりの声が震える。僕が彼女の闘病中に、別の温もりを探し、別の誰かと夜を共有していたこと。それが「治療」という隠れ蓑を着ていても、彼女にとっては裏切り以外の何物でもないということが、その鋭い問いかけから伝わってくる。
「違う、あかり、これは……」
言い訳を探す僕の口を、あかりの嗚咽が遮った。彼女は点滴スタンドから手を離し、顔を覆って泣き出した。
抗がん剤の副作用でボロボロになりながら、僕の孤独を埋めるためではなく、僕が「誰かに縋り付かなければ生きていけない脆い人間であること」を突きつけられた絶望。
にこると南ちゃんも、その光景を前に言葉を失い、ナースステーションの隅で立ち尽くした。
僕の手には、まだ二人の手の温もりが残っている。
右手に南ちゃん、左手ににこる。そして目の前には、泣き崩れるあかり。
僕は、自分の欲望と、大切にしたいはずの優しさの間で、完全に引き裂かれていた。ナースステーションという聖域は、僕の醜さを隠しきれず、あかりの涙によって、ただの泥の溜まり場へと成り下がっていく。
誰も動けない。ただ、あかりの泣き声と、電子音だけが、この閉鎖された病院の夜を支配していた。