パンデミック.新形コロナウイルス
ベッドの上で、夏実はまだその小さな体を震わせながらぽろぽろと涙を流していた。
家庭の傷跡も、投げやりにつけられた名前の痛みも、まだ癒えるはずがない。なのに僕は、その現実をどこか上の空で受け止めながら、「夏に生まれたから夏実なんだね」と、無邪気にその名前を何度も繰り返しては彼女をからかうように構い続けた。
「ねえ、夏実。いい名前じゃないか、夏実」
からかうような、けれどどこか熱を持った調子で名前を呼び続ける僕に、部屋の扉が開き、明かりやニコル、そして南ちゃんたちが慌てた様子で入ってきた。
「ちょっと、そんなに構っちゃだめでしょ!」
「傷ついているんだから、かわいそうだよ……!」
彼女たちが咎めるように声を荒らげ、僕を制止しようとする。けれど、僕のなかで「夏実」という響きが妙な熱を帯びて膨れ上がり、もうその手を止めることができなかった。
しつこく名前を呼ばれ、戸惑いながらも圧倒されていた夏実だったが、僕のあまりの調子の良さと、どこか抜けた様子にしだいに肩の力が抜けていった。
張り詰めていた糸がプツリと切れたように、彼女は涙を流したまま、ふっと息を漏らし、やがて声をあげて笑い出した。泣き顔のまま、腹を抱えて転げるように笑う夏実の姿に、部屋を包んでいた重苦しい空気が一気に溶けていく。
泣きながら、それでも笑い転げる彼女を見て、僕は胸の奥が熱くなるのを覚えていた。
< 360 / 417 >

この作品をシェア

pagetop